医師
専門を決めきれなかった自分が救急を選び
3年後に感じていること
洛和会音羽病院
ER宮崎 大地

3年間の「京都ER救急科専門研修プログラム」を経て現在も医師として同科で活躍している宮崎医師に、研修や研修を通して得たもの、また勤務の状況など詳しく聞きました。
■Before:応募前の自分
救急科を選んだ理由の一つはモラトリアムの延長でした。初期研修で各科を回っても「これを一生やりたい」と思える専門を決めきれずもう少し迷っていたいという気持ちがありました。一方で救急科ローテーションや夜間当直は純粋に楽しいと感じていました。もともと子どもが好きで医師を志し小児科志望でしたが初期研修を通して相対的に救急科への興味が強くなりました。救急でも子どもを診ることはできます。何より多種多様な患者・疾患を診られる点が自分の飽きっぽい性格に合っていると感じました。
当院を選んだきっかけは「京都ERポケットブック」です。初期研修中に愛用していました。救急対応が場当たり的で不安だった自分にとって型を提示してくれる内容が魅力的でした。実家が近く土地に愛着があったことも理由の一つです。
救急科と当院を選んだことに対する不安はあまりありませんでした。
■Experience:実際の研修
結論から言うと3年間の研修には満足しています。
まず印象に残っているのは人間関係の良さです。当院の救急外来は忙しく日々多くの患者に対応する必要があります。その中でもスタッフが感情的になる場面はほとんどなく働く上でのストレスは少なかったと感じています。結局のところ仕事を続けられるかどうかは人間関係の影響が大きいと思います。
臨床面では期待していた通り多様な症例を経験できました。救命救急センターとして救急車・walk-inともに受け入れるため軽症から重症まで、さらに医学的問題だけでなく心理社会的問題も含めて幅広く診療します。
一方でスタッフ数が限られているため忙しさはあります。その環境の中で早い段階で方針を立て効率よく検査・診療を進める力は鍛えられました。
研修前は「型を体系的に学べるのでは」と期待していましたが実際にはそれほど整備されているわけではありませんでした。そのため自分で「CareNeTV」などの教材を使いながら学習しました。最近では電子カルテのセット化など型を作る取り組みも進んでおり今後の発展に期待しています。自分も関わっていきたいと思っています。
ローテーションは特徴的で3〜6か月単位で施設・診療科が変わります。私は3年間で7つの施設・診療科を経験しました。他院では1施設を長期間回ることが多いと聞きますがこの制度により「自院・自科の常識が絶対ではない」と気づくことができ視野が広がりました。これは個人の成長だけでなく組織改善にもつながる経験だと思います。
ワークライフバランスは非常に取りやすい環境でした。子どもの誕生や家族の介護などライフイベントに対して柔軟に対応してもらえたことは大きかったです。制度だけでなく部長が理解を示してくれる点が重要だと感じました。例えば育休は部長から「1年取っていい」と即答されました。最終的には短期間で復帰しましたが。また自分自身が家族の介護を経験したことで介護制度や社会的問題への理解が深まり救急外来で同様の問題を抱える患者に対してより実感を持って関われるようになりました。
■症例:転倒を繰り返す患者に対して帰宅で終わらせない判断
大型連休中の夜、転倒と頭部打撲を主訴に中年男性が救急受診しました。過去の頭蓋内疾患の後遺症で片麻痺が残存しています。ここ数か月で転倒が増え今回で頭部打撲は3回目でした。症状は軽度で頭部CTでは明らかな異常はなく医学的には帰宅可能と判断できる状況でした。
しかし家族から詳しく話を聞くと問題の本質は別にあると感じました。この数年でADLは低下しすでに自宅生活は限界に近い状態でした。にもかかわらず介護保険の申請や公的サービスは一切利用されていませんでした。本人と家族は「どこに相談すればいいかわからない」という状態でした。
そこでこの症例では医学的判断だけで終わらせず地域包括支援センターへの相談や利用可能な公的支援制度について説明しました。具体的な電話番号もその場で一緒に調べました。さらにかかりつけ医へ情報提供を行い医療と介護の接続を意識した対応としました。
研修前であればCTが問題なければ帰宅という判断で終わっていたと思います。現在は「この患者はなぜ転倒を繰り返しているのか」「今後どうすれば同じことを防げるか」という視点で考えるようになりました。
■After:3年後の自分
救急医としての専門性はまだ十分ではないのではないかという感覚は今でもあります。これは多くの救急科専攻医が感じる悩みだと思います。
ただし当院のプログラムで掲げられている以下の能力については確実に伸びたと実感しています。
- 年齢・疾患を問わず対応する力
- 蘇生・集中治療の初期対応力
- 救急外来全体を見て動くマネジメント力
- 患者背景を踏まえて意思決定する力
- 自己学習と教育を継続する力
特に大きな変化は緊急性だけでなく患者の背景を含めて方針を決めるようになったことです。単に診断・治療を行うだけでなく患者・家族・他職種と協議しながら意思決定するという点で自分の診療スタイルは大きく変わったと思います。
■勤務のリアル
平日日勤は8:00〜16:45です。救急車とwalk-inの両方の初療を担当します。1日あたりの対応患者数は5〜10例、忙しい日は15例程度です。定時で帰れる日もありますがカルテ業務や夕方の患者対応により残業が発生することもあります。残業は概ね18時までで遅くても20時までです。月の残業時間は30時間程度です。
夜勤・休日日勤は月3〜4回程度で14:00〜翌9:30または17:15〜翌8:30の勤務です。夜勤は基本的に残業はありません。
オンコールは月5〜10回程度あります。救急外科当直医が手術中の場合に代理で当直対応を行うもので時間外勤務となります。実際に入るのは月に2回程度です。実質的に追加報酬や代休がないため心理的負担を感じる場面はあります。
当院には年1回リフレッシュ休暇という12連休をとれる制度があり魅力だと思います。私は全て海外旅行に行きました。
■初期研修医へのメッセージ
専門を決めきれていない人にこそこのプログラムは向いていると思います。自分もそうでしたが「まだ迷っていたい」「いろいろ経験したい」という気持ちは決して間違いではありません。むしろそういう人ほどこの環境で多様な症例や診療科を経験することで自分なりの軸が見えてくると思います。
実際に私はこの3年間を通して教育という軸を見出しました。専攻医プログラム修了後は医員として当院に残ると同時に岐阜大学大学院の医療者教育学専攻に進学することにしました。
救急科としての臨床力だけでなくその先のキャリアを考えるきっかけにもなるプログラムだと思います。
■Recommendation:このプログラムが向いている人
向いている人
- 幅広い疾患・症状に対応できる医師になりたい人
- 不確実な状況でも考え続けることができる人
- 医学的問題だけでなく心理社会的問題にも関わりたい人
向いていない人
- 明確な正解が提示される環境を求める人
- 忙しい状況で余裕を保てない人
■他院との違い
一つの施設に固定されず複数施設を短期間でローテーションする点が特徴的です。
異なる環境を経験することで「当たり前」を相対化できるのは大きなメリットだと感じました。